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3 国政

国旗の損壊等の処罰に関する法律案(改訂案)

国旗の損壊等の処罰に関する法律案(改訂案)

(目的) 第一条 この法律は、国旗の損壊等の行為のうち、公共の平穏を害するもの及び人の集団に対する不当な差別を扇動するものを処罰することにより、公共の平穏の維持及び個人の尊厳の保護に資することを目的とする。

(定義) 第二条 この法律において「国旗」とは、国旗及び国歌に関する法律(平成十一年法律第百二十七号)第一条に定める日章旗の意匠を有する有体物をいう。 2 この法律において「損壊等」とは、国旗を損壊し、焼損し、又は汚損する行為をいう。 3 この法律において「公然と」とは、不特定又は多数の者が認識することのできる状態においてすることをいう。

(公共の平穏を害する損壊等) 第三条 公衆の集合する場所又はその付近において、公然と国旗の損壊等をし、よって公共の平穏を害し、又はこれを害する明白かつ現在の危険を生じさせた者は、一年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。

(差別の扇動を目的とする損壊等) 第四条 国民その他特定の国若しくは地域の出身者又は特定の民族に属する者の集団に対する差別、排除又は暴力を扇動する目的で、公然と国旗の損壊等をした者は、二年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

(適用除外) 第五条 前二条の規定は、次に掲げる行為には適用しない。 一 国若しくは地方公共団体の政策、制度その他の公的な事項に対する批判その他の意見の表明として行われる行為 二 学術研究、報道、評論、芸術その他の表現活動として行われる行為 三 国旗の通常の使用に伴う損耗又は法令若しくは慣例に従った国旗の処分 四 公然性を欠く態様で、専ら私的な生活の領域において行われる行為

(適用上の注意) 第六条 この法律の適用に当たっては、表現の自由その他の日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害してはならない。

附 則 (施行期日) 1 この法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。 (検討) 2 この法律の規定については、その施行後三年を目途として、施行の状況並びに公共の平穏及び個人の尊厳の保護の状況を勘案して検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果に基づいて所要の措置が講ぜられるものとする。

理 由  公然たる国旗の損壊等の行為のうち、公共の平穏を害するもの及び人の集団に対する不当な差別を扇動するものについて、公共の平穏の維持及び個人の尊厳の保護の見地から、これを処罰する規定を設ける必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。


反対論への逐条応答

以下は、二層構造の保護法益(第一層=公共の平穏、第二層=人の集団の尊厳・差別扇動からの保護)に基づき改訂した法律案について、刑事法研究者・弁護士団体・人権団体・芸術関係者等から想定される反対論と、それへの応答を条文の順に整理したものである。各応答は、比較法(独・仏・西・韓)及び憲法・国際人権法上の判例(Texas v. Johnson、United States v. Eichman、Fragoso Dacosta v. Spain、自由権規約委員会一般的意見34)に依拠する。

第一 総論への応答

1 「立法事実がなく、既存の器物損壊罪で足りる」との批判

【反対論】国旗損壊が社会問題化している実態はなく、他人所有の国旗損壊は既に器物損壊罪で処罰できる。新たな立法の必要性がない。

【応答】本案の保護法益は、器物損壊罪の財産権とも、外国国章損壊罪の外交的利益とも異なり、公共の平穏(第三条)及び人の集団の尊厳(第四条)である。既存法では、自己所有の国旗を用いて公共の場に現実の混乱の危険を生じさせる行為、及び差別・暴力の扇動の手段として国旗を損壊する行為を捕捉できない。立法事実は「国旗損壊の件数」ではなく、これらの保護法益に対する侵害形態が現に生じ得ることによって基礎づけられる。

2 「象徴への侮辱を刑罰で守るのは表現の自由に反する」との批判(Johnson型)

【反対論】国家的象徴の保存を目的とする損壊処罰は、米国 Texas v. Johnson が違憲とした内容規制そのものである。

【応答】Johnson が退けたのは「国民的統合の象徴としての国旗の保存」を理由とする規制であった。本案は、第一条が明示するとおり、象徴の保存も国民感情も保護法益としていない。処罰の根拠は、行為が生じさせた結果(公共の平穏の侵害)及び行為の目的(差別・暴力の扇動)であり、表現内容ではなく態様・目的に着目した規制である。ゆえに同判決の射程外にある。

3 「国家は自国象徴への批判を甘受すべき」との批判(Fragoso型)

【反対論】Fragoso Dacosta v. Spain は、国旗への侮辱的言辞への罰金刑すら条約違反とした。国家は象徴への批判を受忍すべきである。

【応答】この判示に全面的に同意する。だからこそ本案は第五条第一号で、国・地方公共団体の政策・制度その他公的事項への批判を処罰対象から明文で除外した。本案は国家・政府・その政策への批判を一切処罰しない。Fragoso が保護した政治的・労働運動的文脈での表現は、本案では構成要件に該当しない。

第二 逐条応答

第一条(目的)

【反対論】「個人の尊厳の保護」を掲げるが、実質は国家象徴の保護を偽装したものではないか。

【応答】第四条の保護対象は「人の集団」に向けられた差別・排除・暴力の扇動であり、国旗・国家そのものは保護客体ではない。偽装でない証左として、日の丸を掲げて特定集団への差別を煽る行為(=国旗を「尊重」する側の行為)も、第四条の処罰対象となる。国家象徴の保護を目的とする法では、この帰結は導けない。

第二条(定義)

【反対論】「日章旗の意匠を有する有体物」も範囲が不明確である。ミニチュア、印刷物、画面表示、Tシャツの図柄まで含むのか。

【応答】原案の「社会通念上認められる有体物」という評価的文言を削除し、「日章旗の意匠を有する有体物」という意匠の同一性を基準とする客観的定義に改めた。「有体物」要件により、電子的な画面表示は対象外となる。また「公然と」は、不特定又は多数の者が認識できる状態という判例上確立した基準で定義した。定義に該当するだけでは犯罪は成立せず、第三条又は第四条の要件(公共の平穏の侵害又は扇動目的)を満たす場合に限り処罰される。

第三条(公共の平穏を害する損壊等)

【反対論】「明白かつ現在の危険」も裁判官の主観的評価に依存し、集会・デモを萎縮させる。

【応答】「明白かつ現在の危険」は、米国判例以来、表現規制の合憲的限界を画するために確立してきた厳格な基準であり、抽象的・観念的な危険では足りず、具体的かつ切迫した混乱発生の蓋然性を要求する。これは処罰範囲を極小化する歯止めとして機能し、原案の「著しく不快又は嫌悪の情を催させる方法」より格段に明確かつ狭い。フランス刑法R645-15も「公序を害し得る状況」を要件化して限定運用している。

【反対論】平穏な抗議デモでの国旗焼却まで捕捉され、政治的表現が萎縮する。

【応答】抗議それ自体も国旗の損壊それ自体も処罰対象ではない。処罰は、公衆の集合する場所又はその付近で、現実に公共の平穏を害する明白かつ現在の危険を生じさせた場合に限られる。平穏なデモでの焼却はこれに該当せず、Fragoso が保護した類型はここに入らない。

第四条(差別の扇動を目的とする損壊等)

【反対論】「扇動する目的」の認定は恣意的であり、内心の処罰に等しい。

【応答】目的犯とすることは、むしろ処罰範囲を限定する方向に働く。単なる損壊や国家・政策への批判は目的を欠くため成立しない。用いる「差別・排除・暴力の扇動」概念は、本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)でも用いられる確立した概念である。処罰は内心のみでは成立せず、「公然たる損壊」という外形的行為を伴う場合に限られる。これは欧州人権裁判所(イタリア・ポーランドの事例)が象徴毀損の処罰を許容した唯一の類型と一致する。

【反対論】保護対象に「国民」を含めると多数派保護の道具となり、「日の丸を汚す=日本人集団への差別扇動」と強弁され濫用される。

【応答】最も重要な論点である。第四条は「集団に対する差別・排除又は暴力を扇動する目的」を要件とする。日の丸を損壊する行為が直ちに「日本人集団への差別扇動」となるわけではなく、政策批判・象徴批判は第五条第一号で除外される。同条が適用されるのは、損壊が現に特定集団への迫害・排斥・暴力の呼びかけと一体化した場合(例:特定民族の排斥を叫びながらの損壊)に限られる。条文は全ての集団を中立的に保護するため、日の丸を掲げて外国人排斥を煽る行為も同条で捕捉される。ゆえに「多数派保護の道具」との批判は当たらない。

第五条(適用除外)

【反対論】除外規定があっても、捜査機関が「これは批判ではなく扇動だ」と恣意的に線引きし、結局は萎縮効果が残る。

【応答】除外を明文化したこと自体が、原案(除外規定が皆無)と比較して萎縮効果を大きく減じる。加えて第六条が、疑わしい場合に表現の自由の保護に働くよう解釈指針を定める。批判と扇動の線引きの困難は本案に固有のものではなく、名誉毀損罪における公共性・公益目的・真実性の抗弁など既存法にも存在し、判例の集積により運用可能である。

【反対論】芸術除外があっても、事前の萎縮は避けられない(ドイツBVerfGのコラージュ事件)。

【応答】第二号で芸術その他の表現活動を明文除外した。これはBVerfGが芸術の自由を国家象徴保護に優先させた判断を条文化したものであり、解釈に委ねるドイツ法よりも予見可能性が高い。

第六条(適用上の注意)

【反対論】訓示規定にすぎず、実効性がない。

【応答】原案の「不当に侵害しないように留意しなければならない」を「不当に侵害してはならない」に改め、義務規定とした。違憲的な適用は本条違反として排除されるべきことの解釈上の根拠となる。

附則(検討)

【反対論】原案は「国旗を大切に思う国民感情を保護するのに必要かつ十分か」を見直しの基準としていた。

【応答】本案はこの基準を削除し、「公共の平穏及び個人の尊厳の保護の状況」を検討基準とした。保護法益を目的規定から検討規定まで一貫させ、解釈の多様化を防いでいる。

第三 反論しきれない論点(正直な整理)

審議に臨むにあたり、次の二点は完全には反論できない。事前に認識しておくことが、かえって議論を安定させる。

(1) 残存する萎縮効果:構成要件を客観化・限定し除外規定を置いても、刑罰法規が存在する以上、境界事例における一定の萎縮効果は残る。これは表現に関わるあらゆる刑罰法規に内在するもので、本案固有の欠陥ではないが、ゼロにはできない。

(2) 当初目的との乖離:本案は「国民感情を広く守る」という原案の狙いを達成しない。平穏な抗議として日の丸にバツ印をつけ、又は焼却する行為は第五条第一号で明確に不処罰となる。これは合憲性を確保するための不可欠な設計であり、強い保護法益と広い射程が両立しないことの帰結である。

この二点を踏まえてなお、本案は原案が抱えた明確性・萎縮効果・比較法的孤立という三つの致命的弱点を解消しており、審議に耐える水準にあると考える。

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