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2 埼玉県政

首相 物価上昇に負けないベアを

官製春闘の危うさ ― 首相の「賃上げ要請」は日本を弱体化させる

岸田文雄首相が経済界に対し、「物価上昇に負けないベースアップ」を強く要請したとの報道がなされた。物価高に喘ぐ国民生活を思えば、一見、心強いリーダーシップの発揮のようにも聞こえる。しかし、我々はこの「官製春闘」とも言うべき政府の過剰な介入に、警鐘を鳴らさなければならない。これは、自由主義経済の根幹を揺るがし、長期的には日本経済の活力を削ぐ極めて危険な兆候であると断じざるを得ない。

自由な経済活動への介入という過ち

そもそも、企業の賃金は、各企業の業績や生産性、そして労使間の真摯な交渉によって自主的に決定されるべきものである。政府が具体的な水準まで示唆し、企業に賃上げを迫るというのは、市場原理に対する冒涜であり、社会主義的な計画経済への回帰を彷彿とさせる。

企業は、将来の設備投資、研究開発、内部留保による経営基盤の強化など、複合的な視点から人件費を判断する。そこに政府がトップダウンで圧力をかければ、企業の健全な経営判断は歪められる。体力のない企業、特に我が国の雇用の7割を支える中小企業にとっては、この要請は死活問題に直結する。無理な賃上げは、倒産やリストラ、新規採用の抑制を招き、かえって雇用不安を煽る結果となりかねない。

「分配」の前に「成長」あり。政府が為すべきことの本末転倒

岸田首相は「成長と分配の好循環」を掲げるが、そのアプローチは本末転倒である。物価がなぜ上昇しているのか。その根本原因に目を向けず、対症療法的に賃金を上げろと号令をかけるのは、為政者としての責務を放棄しているに等しい。

政府が真に取り組むべきは、賃上げの「お願い」ではない。企業が自らの力で利益を出し、自然な形で賃上げできる環境を整備することこそが、その本分であるはずだ。具体的には、過剰な規制を緩和し、企業の自由な活動を促進すること。法人税を減税し、企業の投資意欲を喚起すること。そして、地政学リスクに備え、安定的なエネルギーを確保すること。これら「成長」への道筋を具体的に示さずして、「分配」だけを声高に叫ぶのは、国民の歓心を買うためのポピュリズムに過ぎない。

パイを大きくする努力を怠り、今ある小さなパイの分け方(分配)にのみ固執すれば、経済全体が縮小均衡に陥るのは自明の理である。

国力衰退への道

無理な賃上げは、企業の国際競争力を直接的に削ぐことにもつながる。人件費の上昇分を価格に転嫁できなければ企業の収益は圧迫され、国際市場での価格競争で不利になる。結果、企業の体力が奪われ、巡り巡って日本経済全体の地盤沈下を招く。

また、賃金上昇がさらなる物価上昇を招く「賃金・物価スパイラル」に陥る危険性も看過できない。一度この悪循環に陥れば、国民生活はさらに苦しくなり、経済はスタグフレーション(不況とインフレの同時進行)という最悪のシナリオに突き進むことになる。

首相の聞こえの良い言葉に惑わされてはならない。政府は民間の経済活動に介入するのではなく、企業が自由に、力強く活動できる「土俵」を整えることに徹するべきだ。自助努力の精神を尊重し、民間の活力を最大限に引き出すこと。それこそが、真の国力向上、そして持続可能な形での国民生活の豊かさにつながる唯一の道である。今回の賃上げ要請は、その王道から外れた、極めて危うい一歩と言わざるを得ない。

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