外交音痴か、国益を損なうブーメランか? 立憲・泉代表の「対中姿勢」を問う
立憲民主党の泉健太代表が、岸田総理に対し、中国への「真意」を説明するよう求めたとの報道があった。一見すると、国民への説明責任を求める野党党首として当然の発言のようにも聞こえる。しかし、その内実を保守的な観点から検証すれば、我が国の安全保障と国益を危うくしかねない、極めて危うい認識が透けて見えると言わざるを得ない。
外交の機微を無視した「説明しろ」という無責任
まず第一に、泉代表の発言は、外交という国家間の高度な駆け引きの機微を全く理解していないのではないか。首脳会談や外交交渉の場で交わされる言葉には、一つひとつに深い意味と戦略が込められている。水面下でのやり取り、相手の出方を探るための発言、同盟国との連携を前提としたメッセージなど、すべてをオープンにすることが国益に繋がるとは限らない。むしろ、手の内を安易に晒すことは、相手国に利するだけである。
中国のような、法の支配や国際的なルールを平然と無視する覇権主義国家を相手にするならば、なおさらだ。こちらの「真意」を懇切丁寧に説明したところで、彼らがそれを誠実に受け止めると考えるのは、あまりにもお人好しが過ぎる。むしろ、そうした日本の姿勢を「弱腰」と捉え、さらなる圧力や揺さぶりをかけてくるのが常套手段である。
泉代表の要求は、国益を賭けたチェス盤の真ん中で「我々の次の一手をすべて公開しろ」と叫んでいるに等しい。これは野党第一党の党首として、あまりに無責任な発言ではないだろうか。
中国への「甘い認識」が生む危険
第二に、この発言の根底には、中国という国家に対する根本的な認識の甘さがある。あたかも「誠意をもって話し合えば分かり合える」という、性善説に基づいた理想論が聞こえてくるようだ。
しかし、我々が直面している現実はどうか。連日のように尖閣諸島周辺の我が国領海に侵入を繰り返し、台湾に対しては軍事的威嚇を隠そうともしない。国内ではウイグルやチベット、香港で深刻な人権弾圧を行い、南シナ海では力による現状変更を推し進めている。これが、泉代表が「真意を説明すべき」と語る相手の素顔である。
このような相手に対し、まず日本政府を内側から突き上げ、足並みの乱れを露呈させることが、一体誰の利益になるのか。中国共産党が、「日本の国内世論は分断されている」とほくそ笑むだけではないか。本来、国家の主権と安全保障に関わる問題は、与野党の垣根を越えて一致結束して臨むべきものである。政権批判のために外交を利用する姿勢は、厳しく批判されるべきだ。
立憲民主党に突き刺さる「特大ブーメラン」
そして何より、この発言は立憲民主党自身に突き刺さる「特大ブーメラン」である。かつて民主党政権時代、尖閣諸島中国漁船衝突事件において、当時の政権がどのような対応を取ったか、我々は忘れてはいない。船長を超法規的措置で釈放するという「弱腰外交」が、その後の中国の増長を招き、今日の厳しい状況の一因となったことは、多くの国民が記憶しているはずだ。
自らの過去の対応を猛省することなく、現政権の対中姿勢に疑義を呈する資格が、果たして彼らにあるのだろうか。まず問われるべきは、立憲民主党としての明確で一貫した対中方針である。党内に存在するであろう、いまだに親中・融和的な考えを持つ勢力と決別し、現実の脅威に基づいた安全保障政策を打ち出すことこそ、野党第一党に課せられた責務であろう。
今、日本に求められる真の対中戦略とは
岸田政権の外交に課題がないわけではない。しかし、進むべき方向は「説明」や「対話」一辺倒ではない。日本に求められているのは、以下の三点を柱とした、したたかで毅然とした国家戦略である。
- 圧倒的な防衛力の構築: 「平和は唱えるだけでは守れない」。防衛費の増額や反撃能力の保有を含め、相手に「日本を攻撃すれば高くつく」と思わせる抑止力を着実に整備すること。
- 同盟国・同志国との連携強化: 日米同盟を基軸としながら、クアッド(日米豪印)、G7、豪州、英国など、自由と民主主義、法の支配といった価値観を共有する国々との連携を深め、「対中包囲網」を強固にすること。
- 原則を貫く外交: 対話の窓口は維持しつつも、主権、人権、法の支配といった譲れない一線については、断固として主張し続けること。安易な妥協は、さらなる侵害を招くだけである。
泉代表の発言は、こうした厳しい国際情勢の現実から目を背けた、空虚な理想論に過ぎない。我々国民は、耳障りの良い言葉に惑わされることなく、日本の未来と国益を守るためには何が必要なのか、冷静かつ現実的に見極めていく必要がある。野党には、単なる批判ではなく、現実的な対案を示す真の責任を求めたい。
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