宮沢税調会長辞任の深層―単なる「トカゲの尻尾切り」では済まされない国家の危機
自民党の宮沢洋一税制調査会長が、派閥の政治資金パーティーをめぐる問題の責任を取る形で、辞任の意向を固めたとの報に接した。多くの国民は「当然だ」「遅きに失した」と感じるかもしれない。メディアはこぞって「政治不信の象徴」としてこの問題を断罪するだろう。
しかし、我々保守を自認する者は、この事態を単なる個人の引責辞任として表層的に捉えるべきではない。この一件は、我が国の統治機能と国益を揺るがす、より深刻な問題の氷山の一角であると認識する必要がある。
責任の所在はどこにあるのか
まず、宮沢氏が会長職を辞することは、政治的・道義的責任を取るという観点からは避けられない判断だったのだろう。国民の厳しい視線が注がれる中、税という国家の根幹を議論する組織のトップが、金銭をめぐる疑惑の渦中にあり続けることは許されない。その意味で、今回の決断は、自民党が辛うじて自浄作用を発揮しようとする姿勢の表れと見ることもできる。
だが、これで幕引きとしてはならない。問題の本質は、宮沢氏一人の責任に帰結するものではないからだ。これは、長年にわたり自民党内に巣食ってきた構造的な問題であり、その膿を出し切るための手術を断行できなかった岸田文雄総理の指導力、そして党全体のガバナンスの欠如にこそ、最大の原因がある。
一人の有力議員の首を差し出すことで世論の批判をかわし、問題を矮小化しようとするならば、それは国民を愚弄する「トカゲの尻尾切り」に他ならない。本当に問われるべきは、なぜこのような事態が長年放置されてきたのか、そして、党執行部がこれまで何をしてきたのか、という点である。
国益を損なう「政策の停滞」という代償
さらに深刻なのは、この政治不信と党内混乱がもたらす「政策の停滞」である。税制調査会長というポストは、単なる党の役職ではない。防衛費増額に伴う財源問題、少子化対策の恒久的な財源確保、デフレ完全脱却に向けた経済政策など、我が国が直面する重要課題の多くは、税制と不可分に結びついている。
宮沢氏は、財政規律と経済成長のバランスを熟知した、党内でも有数の政策通であった。その後任が誰になるかは不明だが、この混乱の最中に、腰を据えた国家百年の計を描く税制議論ができるのか、甚だ疑問である。
メディアや野党は、スキャンダルを追及することに終始し、政府・与党の機能不全を煽る。しかし、その結果として、我が国の重要政策が停滞し、国力が損なわれることになれば、それこそが国益に反する最たるものではないか。政治の混乱を喜ぶのは、我が国の弱体化を望む内外の勢力だけである。
今こそ求められる「真の保守政治」
我々が今、岸田総理と自民党に求めるべきは、小手先の辞任劇ではない。派閥の解消といった形式的な改革でもない。政治家一人ひとりが、国民から負託を受けた公人としての矜持と責任感を猛省し、襟を正すことだ。そして、いかなる批判を受けようとも、国家国民のために必要な政策を断固として前に進めるという、強いリーダーシップを発揮することである。
宮沢税調会長の辞任は、一個人の政治生命の問題ではない。自民党が、そして日本の政治が、国民の信頼を取り戻し、責任ある統治能力を回復できるかどうかの試金石である。この危機を乗り越え、より強く、より健全な保守政治を実現することこそ、この混乱の中で我々が目指すべき唯一の道である。
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