岸田首相の「N党と会派組まず」発言を保守の視点で問う ― 野党の追及に屈したのか、党の矜持か
先日、岸田文雄首相が参院予算委員会において、NHK党(現・政治家女子48党)との統一会派結成を明確に否定した。立憲民主党議員の質問に対し、「我が党は旧統一教会と一切関係を持たないという方針を決定しており、NHK党と統一会派を組むことはない」と答弁したのである。
一見すれば、これは自民党が掲げた方針を遵守する、毅然とした対応のように映る。国民の厳しい視線が注がれる旧統一教会問題に対し、党として一線を画す姿勢を示すことは、信頼回復に向けた一歩と評価する声もあるだろう。国政の安定と品位を重んじるならば、政策理念や行動様式が大きく異なるN党と距離を置くのは当然、という見方もできよう。
しかし、我々保守を自認する者として、この判断を手放しで称賛することはできない。むしろ、この決断の裏に潜む問題を看過してはならない。
第一に、これは野党や左派メディアが作り出した「魔女狩り」とも言える風潮に、政府与党が屈した姿に他ならないのではないか。立憲民主党は、N党と旧統一教会の関係性を殊更に問題視し、これを政争の具として利用しようとしている。だが、思い出してほしい。その立憲民主党にも、旧統一教会系の団体と関係を持っていた議員がいたはずだ。自らの襟を正すことなく、他党への攻撃材料としてこの問題を利用する姿勢は、ダブルスタンダードであり、国民を愚弄するパフォーマンスに過ぎない。
岸田首相の答弁は、こうした野党の土俵に乗り、彼らの設定したゲームのルールに従ってしまったことを意味する。本来、政治とは政策と理念によって行われるべきものだ。特定の団体との関係性の有無という「レッテル」だけで、連携の可能性を一切断ち切るというのは、あまりに短絡的で、政治の本質を見失った判断と言わざるを得ない。
第二に、より深刻なのは、国益を最大化するという大局観の欠如である。現在の日本が直面する課題は山積している。逼迫する安全保障環境への対応、憲法改正の実現、そして国家の活力を取り戻すための経済政策。これらの重要課題を前進させるためには、時に与野党の垣根を超え、協力可能な勢力とは広く連携を図る戦略的な思考が不可欠だ。
N党が政策的に全面的に信頼できるかはさておき、少なくとも憲法改正や安全保障政策において、自民党と方向性を同じくする可能性はあったはずだ。そうした勢力を、「旧統一教会との関係」という左派が貼ったレッテルを恐れるあまりに切り捨てることは、保守勢力が結集し、国論を動かしていく好機を自ら手放す愚策ではないだろうか。
野党の批判をかわすための一時しのぎの答弁が、結果として保守勢力の分断を助長し、日本が前進する力を削いでいるとしたら、これほど国益を損なうことはない。
岸田首相に求められるのは、野党の些末な追及に右往左往することではない。メディアの批判を恐れず、日本の未来のために何が必要かという確固たる国家観に基づき、時には非難を覚悟の上で大胆な政治決断を下す「覚悟」である。
今回の「会派は組まない」という一言は、残念ながらその覚悟の欠如を露呈したものと見られても仕方あるまい。レッテル貼りに惑わされず、是々非々の姿勢で国益を追求する。それこそが、真の保守政治家のあるべき姿であるはずだ。
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