2025年2月、埼玉県主催の「埼玉グローバル賞」世界への挑戦部門において、八潮市に拠点を置く株式会社ワイ・エス・エムが受賞を果たしました。同社は、板金技術を駆使した特注照明器具と建築金物の分野で高い評価を受け、これまでに国際的なデザイン賞を多数獲得。その実績が地域産業の可能性を示すものとして、注目を集めています。
同社の受賞は、八潮市が誇るものづくり技術が世界基準で認められた証であり、地域経済の活性化や若手人材の育成にも大きな影響を与えると期待されています。
目次
ものづくりの最前線を走る企業
精密板金加工のエキスパート
株式会社ワイ・エス・エムは、八潮市を拠点に、0.3mm単位の精密板金加工技術を活かした特注製品の開発を行う企業です。同社の主力製品である「Y.S.M PRODUCTS」シリーズは、建築用金物からインテリア照明まで幅広く展開されており、機能性と芸術性を兼ね備えた独自のデザインが特徴です。
特にステンレスとアルミニウムの複合加工技術においては特許を3件取得。曲げ加工の精度±0.1mmを実現するなど、国内外の建築家やデザイナーから高い評価を受けています。
世界に認められたデザイン哲学
同社の製品コンセプト「“ひととき”をつくる」は、機能性だけでなく、空間の情緒性を重視した設計思想に基づいています。この哲学が評価され、2019年にはドイツのiFデザインアワード(製品デザイン部門)を受賞。2024年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)の常設展示品として選定されるなど、世界的な評価を獲得しました。
これらの実績が、今回の埼玉グローバル賞受賞へとつながったのです。
受賞の背景と審査評価ポイント
埼玉グローバル賞の審査基準
「世界への挑戦」部門では、
- 技術革新性
- 国際展開実績
- 地域貢献度
の3つの観点から審査が行われました。
ワイ・エス・エムは、「伝統的板金技術のデジタル化により生産効率を35%向上させつつ、職人技の繊細さを維持した点」が高く評価されました。特に、AIを活用した曲げ加工シミュレーションシステムの開発は、小規模工場の国際競争力強化モデルとして注目されました。
世界市場での実績
2024年度の輸出比率は総売上高の42%に達し、主要取引先は以下の国々に分布しています。
- ドイツ(28%)
- アメリカ(19%)
- シンガポール(15%)
さらに、同社の製品の75%が建築家向けのオーダーメイド品であり、3Dプリント技術を活用したリードタイム短縮(平均14日)も実現しています。
地域産業への波及効果
地元サプライチェーンの強化
受賞を契機に、八潮市金属加工業協同組合は、地元企業17社で構成される「プレミアム板金クラスター」を結成。これにより、
- 共同購買による材料費15%削減
- 3Dスキャナーなどの高額設備の共有化
が進み、2025年4月時点で、クラスター参加企業の受注額が前年比平均23%増となるなど、具体的な成果が表れています。
人材育成の新たな試み
八潮市教育委員会との連携により、2025年度から市内中学校の技術家庭科教材に同社の加工サンプルが採用されることが決定。生徒は実際の加工工程動画をQRコードで閲覧できるなど、デジタル技術を活用した職業教育が展開されます。
さらに、八潮工業高校との共同プロジェクト「板金AIデザイン講座」では、生徒の作品が実際に製品化される機会も提供されています。
未来への展望と課題
グローバル市場へのさらなる挑戦
2026年には、ドイツ・デュッセルドルフに欧州営業所を設置予定。現地の建築設計事務所10社と独占供給契約を締結し、受注から納品までを現地で完結するシステムの構築を目指します。
また、インド・バンガロールの工場と連携し、部品供給ネットワークの整備を進めることで、リードタイムのさらなる短縮(目標10日)にも取り組んでいます。
持続的成長のための課題
現在、最大の課題は人材不足です。熟練板金工の平均年齢が52歳と高齢化が進む中、
- VRを活用した技能継承システムの開発(2025年度予算1.2億円)
- ベトナム人技能実習生向け日本語研修プログラムの拡充(定員2倍化)
を進め、2026年までに若手技術者の割合を18%から35%へ引き上げる計画です。
結論:地域から世界へ、さらなる飛躍へ
株式会社ワイ・エス・エムの埼玉グローバル賞受賞は、地域密着型企業が持つ潜在力がグローバル市場で開花した好例です。
八潮市の産業政策と企業の継続的なイノベーションが相乗効果を生み、世界市場に新たな価値を提供しています。今後、AIと伝統技能の融合深化、国際物流ネットワークの強化、後継者育成システムの確立が、さらなる成長の鍵となるでしょう。
ワイ・エス・エムの挑戦は、八潮市全体の産業変革を牽引し、「ものづくり八潮」のブランドを世界に発信する大きな一歩となることが期待されます。