八潮市における隠れ待機児童問題

はじめに

近年、多くの自治体で「待機児童ゼロ」が達成されつつありますが、その一方で、希望する保育施設への入所が叶わず、潜在的な待機状態にある「隠れ待機児童」の存在が新たな課題として認識され始めています。2025年5月現在、隣接するさいたま市においては、4年連続で公式な待機児童ゼロを達成しながらも、隠れ待機児童(利用保留児童)が1268人にのぼると報道されています。この事実は、八潮市においても同様の課題が潜在している可能性を示唆しており、今後の保育政策を検討する上で重要な示唆を与えるものです。

1. 八潮市における「隠れ待機児童」問題の可能性

さいたま市の事例では、保育施設の総量が増加したにも関わらず、保護者の具体的なニーズ(例:駅周辺の施設への希望集中)と供給側の状況(例:小規模保育園の空き状況、立地)との間にミスマッチが生じていることが、隠れ待機児童発生の主要因として指摘されています。特に、駅へのアクセス利便性が高い施設への需要集中や、0~2歳児を対象とする小規模保育園の特性(3歳以降の預け先への懸念など)と保護者の認識との間に乖離が見られる点が特徴的です。

八潮市においても、つくばエクスプレス沿線を中心とした開発が進み、都心へ通勤する子育て世帯が増加している現状を鑑みれば、特定の地域や条件を持つ保育施設への需要が集中し、さいたま市と同様の「隠れ待機児童」問題が発生している、あるいは今後顕在化する可能性は否定できません。保護者が真に希望する保育サービスと、提供されるサービス内容や立地条件との間にミスマッチが存在する場合、公式な待機児童数には表れない潜在的な保育ニーズが充足されていない状況が考えられます。

2. 八潮市が取り組むべき政策

上記の現状認識に基づき、八潮市が取り組むべき具体的な政策を以下に提言します。

(1) 保育ニーズの精密な把握と分析

保護者が抱える潜在的なニーズを正確に把握するため、詳細な実態調査を実施すべきです。具体的には、希望する保育施設の立地条件(駅からの距離、送迎ルート等)、保育内容、利用時間等に関するアンケート調査やヒアリングを定期的に行い、その結果を分析し公開することが求められます。これにより、隠れ待機児童の実態を可視化し、的確な政策立案の基礎とします。

(2) マッチング機能の強化と情報提供の質の向上

保育コンシェルジュ制度を拡充し、相談体制の専門性を高める必要があります。各家庭の個別事情に応じたきめ細やかな情報提供や、小規模保育園を含む多様な保育資源のメリット・デメリットを丁寧に説明し、最適な選択を支援する体制を構築すべきです。また、市内保育施設の空き状況、特色、見学情報等を一元的に集約し、リアルタイムで提供するICTシステムの整備も有効です。

(3) 保育の質の確保と多様な選択肢の提供

小規模保育園については、その保育内容の魅力や3歳以降の進級に関する情報を積極的に発信し、保護者の理解促進と不安解消に努めるべきです。また、保育施設へのアクセス改善策として、送迎ステーションの設置や、複数の園による共同送迎バスシステムの導入支援など、物理的な障壁を低減する方策を検討する必要があります。同時に、保育士の処遇改善と就労環境の整備を通じて、保育の質を維持・向上させる取り組みも不可欠です。

(4) 将来予測に基づく持続可能な保育計画の策定

近隣自治体の事例(例:さいたま市における2030~35年の保育利用者数ピーク予測)も参考に、八潮市の将来的な人口動態と保育ニーズの変化を予測し、長期的な視点に立った保育計画を策定することが肝要です。単なる施設増設に偏重することなく、既存ストックの有効活用、保育サービスの多機能化・柔軟化など、持続可能な供給体制の構築を目指すべきです。

おわりに

「隠れ待機児童」問題は、子育て世代の就労継続や生活設計に直接的な影響を与える喫緊の課題です。八潮市が真に「子育てしやすい街」として発展するためには、この問題に正面から向き合い、保護者の実質的な困難を解消するための具体的な政策を推進することが不可欠です。市民一人ひとりがこの問題に関心を持ち、建設的な議論を通じて、より良い保育環境の実現に向けた取り組みを進めることが期待されます。

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